翻訳業務の実際
技術報告書の英訳作業
業務紹介で述べましたように化学品メーカーで永年技術翻訳に携わり、多種類の文書の
英訳と和訳に従事しました。その経験に基づいて技術文書英訳の作業をご説明いたします。
顧客から製品の性能や使用法を問い合わせてこられ、英文で回答を作成する場合、作業の手順
は以下のようになります。
1. 問い合わせ内容を確認する。
2. 問い合わせ内容に最適な回答を日本語で作成する。回答作成に実験データが必要な場合は
実験を行い、実験方法とデータを回答に加える。
3. 回答を英訳する。
4. 英訳文を英文レターの様式に従って編集する。
5. 英訳依頼者及び責任者の最終確認を受ける。
作業内容を書くと簡単ですが、それぞれの作業が的確に行われないとユーザーに満足してもら
える回答にはなりません。外部へ出す文書の内容は、企業の信用度を左右します。
1の作業は、営業担当者あるいは技術開発担当者が行います。
2の作業は、技術開発担当者が行います。
3と4の作業を翻訳担当者が引受けます。3と4とは通常、同時進行です。日本語の内容に疑問の
あるときは、翻訳担当者が2あるいは1の段階に遡って確認することもあります。
5の作業の結果、英訳文の内容に加筆修正が入ることもあります。
多様な翻訳文書
業務紹介でお目にかけました下記の翻訳可能文書について若干説明いたします。これらの文書
には共通点があり、それは内容と共に様式が重視されることです。それぞれの文書の様式は、
文書の使用目的に沿って定められます。特許明細書のように、法律や施行規則で様式が定められ
ているものもあります。
一方、文書内容の重要性にはいくつかの側面があります。製品規格書は自社製品の品質保証の
基本となるため、規格書の記載内容には細心の注意が払われます。
品質管理文書や工程図(フローチャート)は自社の生産ノウハウが詰まった機密文書で、厳重に管理さ
れます。機密保持が重要となるのは、契約書、プレゼンテーション資料、ビジネスレター、公開
される前の特許明細書も同様です。
技術文書: 技術報告書 試験報告書 製品説明書 分析報告書 製品規格書 品質管理文書
工程図(フローチャート) 製品安全性データシート(SDS) 安全性関連法規制文書
安全性関連試験法
営業関連文書: 契約書 プレゼンテーション資料(Powerpointファイル作成)
ビジネスレター
知財関連文書: 特許明細書 特許出願中間処理文書
広範な専門分野
私が翻訳業務を開始した技術分野は、繊維油剤と呼ばれる製品の開発と製造でした。繊維油剤は化学繊維を製造する際に不可欠の化学製品であり、繊維の品質や生産性に大きな影響があります。繊維油剤に関する技術文書の和訳、英訳から始まり、繊維加工助剤、繊維製造加工技術の分野へと翻訳対象が広がりました。
製品の分析方法を翻訳するために英文の分析方法や試験規格を読んで化学品の分析についても学びました。
化学製品の安全性に関しては国内外で法律や規制制度が整備され、製造販売事業者が安全性証明の各種書類を作成提出する機会も増えています。
企業の知的財産を守るための特許出願も国内国外の両方を視野にいれて進められるため、特許出願書類の英訳が業務に加わります。
このような事情の結果として、私が翻訳を手掛ける分野が以下のように広がっていきました。
繊維油剤 紡糸油剤 紡績油剤 精練剤 染色助剤 繊維仕上剤
界面活性剤とその応用製品
化学繊維の製造加工技術(紡糸、紡績、製織、製編、染色、仕上)
各種繊維製品(衣料、不織布、産業資材)
有機合成化学(プラスチック、成型品)
化学分析
製品安全性関連情報及び法規制(国内、国外)
特許出願
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